太極拳や合気道はなぜ、力を抜くのか?(1)

 

久しぶりの投稿となります、ワタルです。

今回は「太極拳や合気道はなぜ、力を抜くのか?」について考えてみます。

 

私が考える理由をとりあえず列挙してみると、

1.重力を力として使える

2.身体内圧力を力として使える

3.静止慣性力(=重心移動の反作用)を力として使える

4.自分の身体に働く力がより正確にわかる

5.動き出しが早くなる

6.視野が広がる

7.バランスが取りやすくなる

8.選択肢が広がる

といったことが挙げられます。

以下、少し詳しく見ていきましょう。

 

1.重力を力として使える

これはとてもシンプルな話ですね。

要するに自分の体重を力に変えるわけです。

その有効性について述べるのは今更ではありますが、

例えば「体重の乗った~」という形容句は、

パンチやキックだけでなく様々な動きに対して良い意味で使われます。

逆に体重の乗っていない動作については、

「手打ち」「手投げ」といったいわゆる「小手先」の動きだとして、

それを戒められることがほとんどでしょう。

つまりある動作に体重を乗せる技術は、

少なくとも力の発揮という面においては、

その動作の上達の指標となるものだと言えます。

そしてその技術の習得と錬磨において、

力を抜くことが大きく役立つのです。

 

武道における突きの動作を例にして説明します。

下の動画は体重が乗ったという状態が、

絵面からも分かりやすいと思って選びました。

 

 

明らかに身体が前傾して、見るからに体重が乗りそうですよね。

もちろん実際にこのような使い方をすることはほとんどありません。

動きが大きすぎて避けられてしまいますから。

ただ、このように傾きをつくることは、

拳など身体の一部分に体重を乗せる感覚を得るには良い方法です。

動画では拳を使っていますが、

肩、肘、膝、足、頭など様々な部位でトレーニングできます。

とはいえこれだけだと、

別段力を抜かなくても出来ると思えるかもしれません。

ではなぜ力を抜く必要があるのか?

それは一言でいえば「精度を上げるため」です。

 

普通に身体を傾ければ、誰がやってもある程度の体重は乗ります。

しかし拳で行う場合に腕の力を完全に抜いたとしたらどうでしょうか。

実際にやってみると想像以上に難しいことがわかると思います。

それは普通の動作においては、

肩や腕を固めることで体重が掛かる方向のズレをカバーしているからです。

そのため腕の力を完全に抜いてしまうと、

体重は腕に掛からずに他所へと流れてしまって上手くいかないのです。

ここでの傾くという動作は、

身体の中心(=重心)から拳に向かって体重を乗せる動きなのですが、

上手くいかない多くの場合、

原因はそれらの位置関係の認識が曖昧なことにあります。

そしてその曖昧さは、

力を抜くことで初めて表面化します。

腕の力を完全に抜いた状態で行うからこそ、

上手くできていないことが分かる。

つまり、拳に体重を乗せるという一見誰にでも出来そうな動作は、

むしろその単純さによって巧拙の原因が隠されているのです。

 

腕の力を完全に抜いて拳に体重を掛けるには、

重心から見た拳の位置を正確に把握する必要があります。

その精度が低いほど腕や肩に力が入ってしまうし、

精度が上がるほどに腕は何もする必要がなくなります。

このように腕に必要な力を指標とすることで、

より正確な体重の乗せ方をトレーニングできる。

以上が力を抜く理由の一つ目、

「重力を力として使える」の説明となります。

 

脱力トレーニング 合気の研究:合わせる感覚の捉え方

 

「合気」とは何か?

という命題に対する現時点での私の回答が、

「相手に気持ちを合わせる」

ことだと前回の記事で書きました。

 

「脱力トレーニング 合気の研究:相手に合わせる」

 

相手を持ち上げたり投げたりする以前の、

自分が相手に全身で合わせた状態こそが合気ではないか?

という個人的見解です。

これが正しいかどうかは様々なご意見があるでしょうが、

とりあえず動画のようなことは出来るようになります。

(前回記事と同じものです)

 

 

相手に全身で合わせてついていくことで、

相手の力が「相対的に無力化」されます。

しかしいきなり速い動きや小さな動きに全身を合わせることは難しい。

そこでまずはゆっくりとした大きな動きに合わせることから練習します。

 

 

ただ腕を持ち上げられるだけでも、

意外と全身を合わせることは難しいです。

自由に動かせる分だけ自分勝手に動かしてしまいがち。

また立位で脚を持ち上げられる場合にも、

腕とは違った難しさがあります。

必然的に片足で立つことになるので、

バランスを取ることに必死になってしまい、

動かされる脚についていくことまで意識しづらいのです。

 

 

動かされた脚に全身でついていく感覚は、

寝技の方が分かりやすいかもしれません。

仰臥位で相手に腕や脚を掴んで起こしてもらいながら、

それに出来るだけ全身でついていく。

上手くいけばいくほど相手に手応えを感じさせません。

最初は難しく感じるかもしれませんが、

少しずつ複雑な動きに対応出来るようになります。

 

このトレーニングの重要なポイントは、

相手の動きを予測して自分勝手に動かないことと、

体幹、腰回りなどを置き去りにしないことです。

予測ではなく身体で知覚した上で、

全身がサボることなく相手に合わせるようにします。

繰り返し行うことで、

相手とぶつからない動きを覚えられるでしょう。

一見、武術とはかけ離れた練習に思えるかもしれませんが、

これが「合気」習得への近道だと考えています。

 

脱力トレーニング 合気の研究:相手に合わせる

 

脱力トレーニングに参加して下さる方の多くは40代以上の男性です。

そしてほとんどの方が「合気」的なものに興味をお持ちのようです。

力を抜いて柔らかく、

相手とぶつからないままに動く、投げる。

そんないわゆる達人と呼ばれる人たちの動きに、

不思議な魅力を感じることは私にも分かります。

それは人生の半ばを過ぎて様々な経験を重ねられて、

人とぶつかることの無意味さに気付いたからでしょうか。

あるいは体力の衰えを感じることで、

健康維持には筋力以外の力が必要だと思われたのかもしれません。

もしそうだとすれば脱力トレーニングは、

40代から取り組むのにピッタリのトレーニングだと思います。

一般的な筋力に頼らない、

柔らかい力と動きを身に付けることが出来るのですから。

 

 

さて、「合気」的なものを望む方に対して、

RESETSTYLEではどのようなトレーニングを提供するのか。

それを説明するためには私が考える「合気」とは何なのかについて、

知っていただく必要があります。

私は合気道を習ったわけではありませんので、

あくまでも自分が経験した範囲での理解であることはご承知ください。

 

このブログの読者で武道・武術に興味がある方ならば、

「合気上げ」

というものはご存じではないでしょうか。

相手に手首を掴ませた状態で軽く手を動かすと、

掴んだ相手が爪先立ちになって固まってしまう。

見た目にもその不思議さが伝わってくるこの技が有名なため、

こうやって相手を動かしたり固めたりすることを、

「合気」と呼ぶのが一般的ではないかと思います。

もちろんそのこと自体に異論があるわけではありませんが、

私は相手を動かす前の段階が重要だと考えています。

 

少し理屈っぽくなってしまいますが、

「合気」という名称について考えてみます。

様々な解釈があるとは思いますが、

単純に読むと「気を合わせる」と私には読めます。

すると今度は「気」とは何か、

そして何に「合わせる」のかという疑問が出ます。

これもまた議論の余地は大いにありますが、

私は単純に「気持ち」「相手に合わせる」と解釈しました。

その結果が上や下の動画になります。

 

 

やり方としてはシンプルなものです。

まずは掴まれた腕から相手がどう動きたいのかを感じ取ります。

そして相手が動き出すのと同時に自分の「全身で」

相手の動きについていくだけです。

それだけで相手は自分の力の行先を見失ってしまい、

勝手にバランスを崩します。

この時ポイントになるのが、

 

・相手の動きを感じ取るセンサー

・感じ取った動きに全身で付いていける身体

 

です。

つまりRESETSTYLEで提供する合気的トレーニングとは、

このセンサーと身体づかいを向上させるものになります。

その具体例というか、

今回の動画の前段階のトレーニングについては、

次回の更新でお伝えします。

 

脱力トレーニング 人体模型を用いた骨格から立つことを考える

 

RESETSTYLEでの脱力トレーニングに参加した人や、

動画を見てくれた人は知っていると思いますが、

私の部屋には一体の人体模型があります。

 

 

模型も壁も白ベースなので若干見づらいですがご容赦を。

この人体模型を眺めながら身体を動かしていて、

ふと気づいたことがあります。

 

「脚、ぶら下がってるな」

 

「腰、細いな」

 

見たまんま言っただけですね。

しかしただこれだけのことが、

「二本の脚で立つ」ことへの理解を随分と深めてくれました。

 

先日どこかのニュースで二足歩行のロボットが、

大きな段差を軽々とジャンプして上っていく映像を見ました。

残念ながら動画は見つかりませんでしたが。。

もし機会があれば、

どのような考え方で片足時の重心をコントロールしているのか、

伺ってみたいものです。

なぜならこの重心のコントロール方法こそが、

物体の運動制御の核心部分だからです。

 

人や今回例に挙げたロボットは二本の脚で立ちます。

物体が安定して静止するためには3点での支持が必要なので、

これは非常に不安定な立ち方だと言えます。

もちろん足裏は実際には点ではないので、

なので直立二足歩行=2点支持と単純には言えません。

しかし四足の動物と比較すると、

静止状態においてはやはり不安定だと言えます。

 

そこで一般的には足腰を固めて安定性を確保します。

脚の上に腰が乗り、その上に胸、頭と積み重ねる。

いわば積み木のような構造です。

なので土台となる脚や腰は出来るだけ固く動かない方がいい。

確かにこの方法だと、

重心のコントロールに労力をかける必要がありません。

脳が「倒れない」ための処理から解放され、

他の作業に意識を割り振ることが出来ます。

これはこれで一つのメリットだと言えるでしょう。

しかし足腰は常に緊張状態を必要とします。

そしてその緊張と弛緩の処理さえも手放した結果、

足腰が固まったままどう緩めていいかも分からなくなります。

その結果が血行不良による膝や腰の痛みにつながるわけです。

一般的な意味ではこの部分がデメリットであり、

だから意識的に足腰を緩める運動をしましょうとも言えますが、

今回の本題はこれからです。

 

静止状態での安定性確保を、

「コントロールの労力を最小限にすることを優先」

した結果が足腰を常時緊張させるという選択です。

しかし運動という側面から、

足腰の使い方を考えるとどうでしょうか。

 

運動とはつまり、

「重心の位置や角度を変える」

ことです。

人の重心はおおむね腰のあたりにあります。

ということは腰周りの位置や角度を自由に変えられること、

その自由度の高さこそが、

「運動の上手さ」

だと言えるでしょう。

したがって運動が上手くなるためには、

足腰の位置や角度を自由に変えられるようになる、

つまり足腰を柔らかく扱える必要があるわけです。

 

これは困ったことになりました。

条件付きとはいえ静止状態での安定性の確保には、

「足腰の常時緊張」が必要であり、

運動が上手くなるためには、

「足腰の柔軟なコントロール」が必須なのです。

あちらを立てればこちらが立たず。

明らかに矛盾しています。

しかし上に書いたように、

静止状態での安定性確保に足腰の常時緊張が必要な理由は、

「コントロールの労力を最小限にする」

という条件があったからです。

つまりこの条件さえ外してしまえばいい。

「重心のコントロールに労力をかける」

ことを受け入れれば、

「足腰の柔軟なコントロール」

こそが、

静止状態と運動状態のいずれにおいても最適な選択になるのです。

 

では「足腰の柔軟なコントロール」とは、

一体どのようなものでしょうか。

そのヒントが冒頭に書いた、

「ぶら下がっている脚」「細い腰」なのです。

 

 

この模型の股関節部分をよく見てもらうと、

二つの丸い球からそれぞれ紐のようなものが出ています。

実はこの紐はゴムで、

これを両方から引っ張ることで骨盤と脚をつないでいます。

なのでこの部分はグラグラです。

さて、この状態の骨格模型を持ち上げるとしましょう。

写真の部分(手、腕は除く)で考えてみた時に、

 

1.二本の脚を片手ずつ掴んで持ち上げる

2.腰椎(骨盤の上の背骨)を両手で掴んで持ち上げる

 

の内、どちらが簡単でしょうか?

もちろん実際には様々な条件がありますが、

骨格それ自体の重さでちぎれてしまうことが無い限り、

2.の方が簡単にバランスが取れます。

もし仮に股関節の所が完全にロックして動かなければ、

1.の方が安心するかもしれません。

そう、これは足腰を常時緊張させる、

一般的な安定性の確保のやり方ですね。

しかし柔らかく常に形が変わる足腰をコントロールするためには、

足で腰をコントロールするのではなく、

「腰で足をコントロールする」しかないのです。

この感覚を言葉にすると、

 

「肋骨から骨盤がぶら下がっている」

「骨盤から脚がぶら下がっている」

 

となり、動くときには

 

「腰で脚を振る」

 

となります。

この感覚が馴染んでくると、

「立つ」ことの意味が大きく変わります。

ロボットのところで書いたように、

ここが重力下における運動制御の核心部分です。

普通の感覚で言えば土台であるはずの足腰を、

ぶら下がっている振り子として扱う。

立ち止まっている時も、

片足立ちで体重がかかっている側も。

 

興味があれば試してみて下さい。

 

脱力トレーニング 合気上げの研究2

 

前々回の記事、

「脱力トレーニング 合気上げの研究」

では、僧帽筋、肩甲挙筋、菱形筋の脱力による、

肩甲骨を外下方への落下を初動とするやり方について書きました。

落下した肩甲骨が肘の下へと滑ることで、

腕に掛かる相手の重さを肩甲骨で支えられます。

その関係性を変えることなく広背筋を脱力によって広げ、

肩甲骨が前に滑ることで掴まれた腕を挙げるというものです。

このやり方は腕の使い方を変えるという意味では、

効果的なトレーニングだと考えています。

繰り返し行うことで、

肩に負担の掛かりにくい動き方が身に付きます。

ただ、もちろんこれで完成というわけではありません。

そこで今回は第2弾ということで、

座った状態から腕を挙げる方法を研究してみました。

 

 

一般的な合気上げと呼ばれるものとの大きな違いは、

腕を挙げる側が相手の手首を掴んでいる点です。

これには手首の回転運動を使えるというメリットと、

手が力みやすいというデメリットの両方があります。

ただ実際に腕を挙げる動作においては、

手首を掴まれるよりも何かを持っていることが多いので、

今回は掴む形を採用しました。

 

動画にもキャプションを挿入していますが、

今回の一番のポイントは、

「重心に働く重力を感じながら腕を挙げる」

点にあります。

 

それによる効果は2つの側面から説明できます。

1点目は、身体に働く力を集約する効果です。

人の身体はいくつものパーツから成り立っていて、

それぞれに重力と抗力が働いています。

そして普通に身体を動かす場合、

それぞれが各個でバラバラに重さを支えています。

しかし重心の1点で落下ベクトルを感じることで、

地面から返ってくる抗力も1方向へと集約されます。

その集約された抗力を使って腕を挙げれば、

普段よりも強い力を出せるのです。

 

2点目は、思考モードから感覚モードへの変化です。

人の身体は面白いもので、

意識を向ける対象が変わると、

身体の状態も大きく変わってしまうのです。

動画のようなシチュエーションにおいては普通、

「どうやって相手を動かそうか」

と頭で考えてしまいます。

実はこの時点ですでに思考モードに入っており、

意識の対象が現実ではなく自分の思考に向いているのです。

しかし重心に働く重力は、

実際に身体に働く現実の力です。

そこに意識を集中させることで、

思考モードから感覚モードへと身体が変わります。

自分の思考ではなく、

現実の力に対応するための身体状況になることで、

普段よりも大きな力を発揮できるのです。

 

脱力トレーニング 北の国から2018 秋

 

ルル~ルルルルル~♪

というBGMには全く似つかわしくない方が、

はるばる北海道から2回目のトレーニング参加。

肌は黒いし筋肉ムキムキだし、

春の初対面の時には私が勝手に持っていた北海道人のイメージを、

完膚なきまでに打ち砕かれましたw

片手で45kgのダンベルを持ち上げる人に、

「脱力を習いたくて来ました!!」

と元気な声で言われても困りますよね・・・。

ところがトレーニングを始めてみると、

不思議なほどに腕の力が抜けるのです。

「筋トレしてても脱力できる」

ことに気づかせてもらいました。

 

 

前回のトレーニングでは、

「腕や脚に掛かる重力を力として扱う」

ということの基本を徹底的に行いました。

今回はその発展版として、

「重心の落下ベクトルを感じながら動く」

ことを重点的にトレーニング。

短期間とは言え1日に7~9時間もやったおかげで、

お互いに上達の手応えを感じられました。

 

動画で行っているのは、

腕相撲のような体勢で指先に重みを集めるトレーニングです。

私は彼のような筋力はありませんので、

普通に腕相撲をしても勝負にはなりません。

しかも両手で押さえられたりすれば、

どう考えてもひっくり返すのは無理と言うものです。

ただ、私の方が優れている部分が一つあるとすればそれは、

「より狭い範囲に集中的に体重を掛けられる」

というものです。

この場合、

手のひらはすでに相手の手により下に押さえつけられています。

しかし相手と組んでいる指先は、

相手の手の上に乗っているのです。

そこで例えば自分の親指の先に体重を集めてみる。

すると予想外の力が相手の親指の付け根辺りの一点に掛かります。

その結果、上手くいけば相手が崩れてしまうのです。

 

 

動画では撮っていませんが、

実際に肘を台に乗せた状態でもやってみました。

可動範囲が狭まるので難しくはありましたが、

出来なくはないといったところです。

手首を巻き込みに来る相手と親指を折りにいくこちらとの、

いわば異種格闘技戦になります。

相手とは違う土俵で戦っているところが武術らしいと思っています。

 

ちなみに小指に集めるやり方もあります。

動画では手首を巻き込む形になっています。

こちらは技術的には親指より難しいのですが、

上手くできれば腕相撲らしい形になりますね。

一度、試してみて下さい。

 

脱力トレーニング 合気上げの研究

 

まずはじめに断わっておきますが、

私は合気道経験者ではありません。

ですから自分がやっていることを、

「これが合気上げです」

などと言うつもりは全くないです。

ただ、「押さえられた腕をどう上げるか」について、

「力の抜き方」と「効果的な身体の動かし方」の観点から、

「こういうやり方もありますよね」

という例を挙げているわけです。

当然、違うやり方もありますし、

偉大な先人達とは異なるものかもしれません。

そこはまだまだ研究中の身ということでお許しください。

 

 

今回の動画で説明していることを簡単にまとめると、

「腕を挙げるときにはまず、肩甲骨を下げてください」

という一言になります。

この時ポイントになるのは「肩甲骨を下げる」事であって、

「肩を下げる」わけではないという点です。

これは一見すると同じような形に見えるので、

ともすると勘違いしてしまいます。

しかし見た目は似ていても、

運動としては全く別物なので注意が必要です。

 

「肩甲骨を下げる」運動の初動は、

首から肩甲骨の内側にかけての力を抜くことです。

具体的には僧帽筋、肩甲挙筋、菱形筋を緩めます。

するとそれぞれの筋肉が緩んで伸びるため、

肩甲骨は外下方へと滑り落ちます。

この動きが腕、特に肘へと伝わる事で、

腕に独特の重さ、力強さが出るのです。

 

一方「肩を下げる」運動は多くの場合、

脇を締める事で行われます。

具体的には広背筋や棘下筋が収縮します。

これはある局面においては、

確かに腕を強くする作用がある反面、

腕の運動性を大きく損なってしまいます。

特に今回のような腕を前に上げる動作においては、

肩甲骨が前方へ滑ることで、

肘をしっかりと支える必要があります。

しかし広背筋が収縮してしまうと、

前方への移動に対してのブレーキとして働きます。

したがって、

「肩を下げる」ことと「肩甲骨を下げる」ことを、

ハッキリ区別してトレーニングしたいのです。

 

ちなみに下の動画は、

いわゆる達人と呼ばれる人の合気上げです。

 

 

この方がされていることの全容は分かりませんが、

少なくとも肩甲骨がダラっと落ちていることは、

明確に見て取れます。

私のような凡人はまず、

こうやって見たら分かる部分から真似することと、

しっかりと考えてトレーニングすることが、

上達のための条件だと思っています。

 

脱力トレーニング 沈墜勁:肩からの垂直落下

 

脱力トレーニングの目的の一つは、

重力を力として扱えるようになることです。

特に水平から下向きへの力を出したい場合、

自分の身体や使っている道具、

或は力を加えたい対象に働いている重力を扱えるかどうかで、

発揮できる力には大きな差が出ます。

 

 

 

今回の動画のポイントは、

腕を使って相手を真下に崩しているにもかかわらず、

自覚的に使っている部分は、

前に出した腕側の体幹のみだということです。

肩や胸、肋骨、腹、腰、骨盤を上から順に、

滑らかに落としていく。

その動きによって、

体幹にかかる重力が自分の腕から相手の方へと次々に加算されていき、

相手の予想よりも大きな力が加わったことで崩れます。

 

とはいっても、

実際に肩や胸が落ちてしまうわけではありません。

ここが脱力トレーニングの難しい所なのですが、

重要なのは肩や胸が落ちる方向が分かっていること、

落ちようとしている力を感じ続けられることであって、

実際に落ちているかどうかが問題ではないのです。

 

ところがそこを勘違いして、

背中や脇、腹の筋肉を固めることで肩を下げてしまうと、

思っているように相手が崩れてくれません。

そのやり方は確かに普通に腕を押し下げるよりは強くなりますが、

まだまだ相手の予測範囲の力しか出せません。

むしろ筋肉を固めたくなる部分の力を抜くことで、

それぞれのパーツが時間差で落下する際の加速度が加算されて、

相手の予測を超えた力となるのです。

 

 

脱力トレーニング 筋力と脱力の違い

 

随分と久しぶりの投稿になりますが、

皆さまいかがお過ごしでしょうか。

文章を書くというのは面白いもので、

せき立てられるように書きたくなる時期と、

どうしても思ったことが書けない時期が、

入れ替わり立ち替わりやってきます。

私だけかもしれませんがw

だから、継続してブログや小説を書き続けている人を、

心からスゴイなぁって感じてしまいます。

 

 

さて。

long time no seeなblogを更新しようと思ったのは、

最近来てくれている方のこんな質問がきっかけでした。

 

「脱力して生まれる力ですが、

だれもかれも同じ強さということはないと思うのですが、

どうでしょうか?」

「人によって力に強い弱いがあるとすると、

要因は何でしょうか?」

「同じくらい脱力ができているのに、

差が出るという要因はあるのでしょうか?」

 

こういう質問をもらえると、

自分がどの程度理解しているのか、

理解を言葉にして伝えることが出来るのか、

良いテストになりますね。

ブログの記事にもなって一石二鳥ですw

というわけで、以下がその回答になります。

 

ちなみに、

理解の程度によって回答が変わること、

現状の私の理解での回答であることを承知願います。

 

まず大枠の概念として理解して欲しいのですが、

筋力(主体)と脱力(主体)との最も大きな違いは、

筋力が筋収縮によって力を生み出すのに対し、

脱力は主に重力と抗力といった、

すでにある力を使う点にあります。

 

筋力=私が力を出す

脱力=(私)に働く力を使う

 

そしてこの(私)に働く力には、

相手が加えてきた力も含まれます。

なので、脱力で使える力の大きさは、

使う人によっても、相手によっても変わります 。

ただ、地球上にいる限り、

重力はいつでもどこでも誰でも使えますね。

 

次に使える力の強弱の要因ですが、

大きく分けて3つが考えられます。

 

まずは知覚能力。

重力や抗力その他、

身体に働く力をどれだけ正確に感知できるか。

脱力がすでにある力を使う以上、

それ自体への感覚が研ぎ澄まされるほど、

大きな力を使えます。

例えるなら太陽光発電におけるソーラーパネルや、

風力発電における風車の性能が良いほど、

大きな電力を生み出せるようなものです。

 

2つ目は伝達能力です。

筋力でも脱力でも地球上にいる限り、

使える力のほと んどは地面からの抗力を必要とします。

重力や相手からの力を地面に流した反作用としての効力を、

いかにロス無く、あるいは増幅して相手に伝えるか。

イメージとしては、

自転車のチェーンのようなものです。

錆びて固くなっていると、

うまくホイールに力が伝わりません。

 

3つ目はコントロール能力です。

すでに身体に働いている力を、

どれだけ効果的に対象へと加えられるか。

もちろんこれは筋力でも同じですが、

力を分散させずに集約する技術が必要です。

ただ、

筋力は自分で出している力をコントロールするのに対して、

脱力ではすでに働いている力を使うため、

より精密なコント ロール技術が必要です。

イメージとしては、

バケツに入った水を手ですくってまくのが筋力で、

バケツを振ったり傾けたりしてまくのが脱力です。

 

脱力のレベルはこれら3つの要因全てに関係します。

ただし、風の無い場所の風車も、

夜のソーラーパネルも電気を生み出しはしません。

同じように脱力も、

「重力を知覚して使う」

という意図が無ければただの腑抜けです。

仮に同じだけ腕の力を抜いたとしても、

相手に合わせるのか重力に合わせるのかで、

強さは全く違ったものになります。

なので修練としては、

「とことん力を抜く」ことと、

「その時身体に働く力を感じる」 ことを、

同時に行う必要があるのです。

 

以上、質問への回答という形で、

脱力トレーニングにおける「力」について、

簡単に書いてみました。

お役に立てれば幸いです。

 

 

脱力トレーニング バレエに使う纏絲勁

 

8月から修練に来てくれてるイケメン整体師。

その紹介で先月から参加のイケメンバレエダンサー。

なんだか最近、イケメン率が上がってる気がする。

残念ながら写真はないけど。

 

ちなみにイケメンダンサーは来春から、

東京ディズニーシーのパフォーマー。

1月には東京入りしてトレーニング開始、

4月にはデビューとのこと。

これも何かの縁だし、

俺も初ディズニーしてみようかなw

 

昨日はそんな彼とのマンツーマン修練。

まずは準備運動にストレッチ。

柔らかい。

脚が180度、パッカーンって開く。

さすが、バレエ歴17年は伊達じゃない。

向かい合ってやるのがちょっとだけツラいw

 

そこから立ち方のチェック。

もちろんダンサーだけあってキレイに立ってる。

ただ、チョコチョコっと手直しをすれば、

驚くほど楽に安定して立てる。

こういうのはやっぱり、

人の目と手を借りないと難しい。

 

そしてメインディッシュの纏絲勁。

「てんしけい」って読むんだけど、

要はカラダを内側から捻ることで生み出す力のことで、

陳式太極拳における力の使い方の大きな特徴の一つ。

彼と話しながら修練するうちに、

実はバレエもこの力を使うようにできてると思えてきた。

 

その理由があの、つま先を180度開く独特の立ち方。

あれをカラダの中心からの、

股関節が外旋する動きでやってみてもらう。

すると股関節、膝、足首と順番に開いていき、

両足からの螺旋の力が背骨を通り上がってくる。

この力が脚や背骨、腕に流れることで、

力強くしなやかな動きを安定しておこなえる。

試しに腕を掴んで押さえようとしても、

関係なく動かされてしまう。

 

ところが、ただつま先を180度開いただけでは、

螺旋の力は流れない。

普通は膝や足首で漏れてしまう。

もちろんバレエは脚を伸ばしてくっつけることで、

膝からは極力漏らさないように組み立てられてる。

ただ、こういう力の概念がないと、

下半身と上半身とを繋ぐ部分で漏れやすい。

腕や脚を動かしても、

中の芯が抜けたように感じる。

もちろん掴めば簡単に押さえられる。

 

面白いのは、

この立ち方動き方の差が見た目にも分かるってこと。

バレエは相手を動かす必要は無いけど、

螺旋の力はパフォーマンスに大きく影響する。

バレエ×太極拳コラボ、

なかなかイケるんじゃないかな。