久しぶりの投稿となります、ワタルです。
今回は「太極拳や合気道はなぜ、力を抜くのか?」について考えてみます。
私が考える理由をとりあえず列挙してみると、
1.重力を力として使える
2.身体内圧力を力として使える
3.静止慣性力(=重心移動の反作用)を力として使える
4.自分の身体に働く力がより正確にわかる
5.動き出しが早くなる
6.視野が広がる
7.バランスが取りやすくなる
8.選択肢が広がる
といったことが挙げられます。
以下、少し詳しく見ていきましょう。
1.重力を力として使える
これはとてもシンプルな話ですね。
要するに自分の体重を力に変えるわけです。
その有効性について述べるのは今更ではありますが、
例えば「体重の乗った~」という形容句は、
パンチやキックだけでなく様々な動きに対して良い意味で使われます。
逆に体重の乗っていない動作については、
「手打ち」「手投げ」といったいわゆる「小手先」の動きだとして、
それを戒められることがほとんどでしょう。
つまりある動作に体重を乗せる技術は、
少なくとも力の発揮という面においては、
その動作の上達の指標となるものだと言えます。
そしてその技術の習得と錬磨において、
力を抜くことが大きく役立つのです。
武道における突きの動作を例にして説明します。
下の動画は体重が乗ったという状態が、
絵面からも分かりやすいと思って選びました。
明らかに身体が前傾して、見るからに体重が乗りそうですよね。
もちろん実際にこのような使い方をすることはほとんどありません。
動きが大きすぎて避けられてしまいますから。
ただ、このように傾きをつくることは、
拳など身体の一部分に体重を乗せる感覚を得るには良い方法です。
動画では拳を使っていますが、
肩、肘、膝、足、頭など様々な部位でトレーニングできます。
とはいえこれだけだと、
別段力を抜かなくても出来ると思えるかもしれません。
ではなぜ力を抜く必要があるのか?
それは一言でいえば「精度を上げるため」です。
普通に身体を傾ければ、誰がやってもある程度の体重は乗ります。
しかし拳で行う場合に腕の力を完全に抜いたとしたらどうでしょうか。
実際にやってみると想像以上に難しいことがわかると思います。
それは普通の動作においては、
肩や腕を固めることで体重が掛かる方向のズレをカバーしているからです。
そのため腕の力を完全に抜いてしまうと、
体重は腕に掛からずに他所へと流れてしまって上手くいかないのです。
ここでの傾くという動作は、
身体の中心(=重心)から拳に向かって体重を乗せる動きなのですが、
上手くいかない多くの場合、
原因はそれらの位置関係の認識が曖昧なことにあります。
そしてその曖昧さは、
力を抜くことで初めて表面化します。
腕の力を完全に抜いた状態で行うからこそ、
上手くできていないことが分かる。
つまり、拳に体重を乗せるという一見誰にでも出来そうな動作は、
むしろその単純さによって巧拙の原因が隠されているのです。
腕の力を完全に抜いて拳に体重を掛けるには、
重心から見た拳の位置を正確に把握する必要があります。
その精度が低いほど腕や肩に力が入ってしまうし、
精度が上がるほどに腕は何もする必要がなくなります。
このように腕に必要な力を指標とすることで、
より正確な体重の乗せ方をトレーニングできる。
以上が力を抜く理由の一つ目、
「重力を力として使える」の説明となります。