脱力トレーニング 合気の研究:相手に合わせる

 

脱力トレーニングに参加して下さる方の多くは40代以上の男性です。

そしてほとんどの方が「合気」的なものに興味をお持ちのようです。

力を抜いて柔らかく、

相手とぶつからないままに動く、投げる。

そんないわゆる達人と呼ばれる人たちの動きに、

不思議な魅力を感じることは私にも分かります。

それは人生の半ばを過ぎて様々な経験を重ねられて、

人とぶつかることの無意味さに気付いたからでしょうか。

あるいは体力の衰えを感じることで、

健康維持には筋力以外の力が必要だと思われたのかもしれません。

もしそうだとすれば脱力トレーニングは、

40代から取り組むのにピッタリのトレーニングだと思います。

一般的な筋力に頼らない、

柔らかい力と動きを身に付けることが出来るのですから。

 

 

さて、「合気」的なものを望む方に対して、

RESETSTYLEではどのようなトレーニングを提供するのか。

それを説明するためには私が考える「合気」とは何なのかについて、

知っていただく必要があります。

私は合気道を習ったわけではありませんので、

あくまでも自分が経験した範囲での理解であることはご承知ください。

 

このブログの読者で武道・武術に興味がある方ならば、

「合気上げ」

というものはご存じではないでしょうか。

相手に手首を掴ませた状態で軽く手を動かすと、

掴んだ相手が爪先立ちになって固まってしまう。

見た目にもその不思議さが伝わってくるこの技が有名なため、

こうやって相手を動かしたり固めたりすることを、

「合気」と呼ぶのが一般的ではないかと思います。

もちろんそのこと自体に異論があるわけではありませんが、

私は相手を動かす前の段階が重要だと考えています。

 

少し理屈っぽくなってしまいますが、

「合気」という名称について考えてみます。

様々な解釈があるとは思いますが、

単純に読むと「気を合わせる」と私には読めます。

すると今度は「気」とは何か、

そして何に「合わせる」のかという疑問が出ます。

これもまた議論の余地は大いにありますが、

私は単純に「気持ち」「相手に合わせる」と解釈しました。

その結果が上や下の動画になります。

 

 

やり方としてはシンプルなものです。

まずは掴まれた腕から相手がどう動きたいのかを感じ取ります。

そして相手が動き出すのと同時に自分の「全身で」

相手の動きについていくだけです。

それだけで相手は自分の力の行先を見失ってしまい、

勝手にバランスを崩します。

この時ポイントになるのが、

 

・相手の動きを感じ取るセンサー

・感じ取った動きに全身で付いていける身体

 

です。

つまりRESETSTYLEで提供する合気的トレーニングとは、

このセンサーと身体づかいを向上させるものになります。

その具体例というか、

今回の動画の前段階のトレーニングについては、

次回の更新でお伝えします。

 

脱力トレーニング 人体模型を用いた骨格から立つことを考える

 

RESETSTYLEでの脱力トレーニングに参加した人や、

動画を見てくれた人は知っていると思いますが、

私の部屋には一体の人体模型があります。

 

 

模型も壁も白ベースなので若干見づらいですがご容赦を。

この人体模型を眺めながら身体を動かしていて、

ふと気づいたことがあります。

 

「脚、ぶら下がってるな」

 

「腰、細いな」

 

見たまんま言っただけですね。

しかしただこれだけのことが、

「二本の脚で立つ」ことへの理解を随分と深めてくれました。

 

先日どこかのニュースで二足歩行のロボットが、

大きな段差を軽々とジャンプして上っていく映像を見ました。

残念ながら動画は見つかりませんでしたが。。

もし機会があれば、

どのような考え方で片足時の重心をコントロールしているのか、

伺ってみたいものです。

なぜならこの重心のコントロール方法こそが、

物体の運動制御の核心部分だからです。

 

人や今回例に挙げたロボットは二本の脚で立ちます。

物体が安定して静止するためには3点での支持が必要なので、

これは非常に不安定な立ち方だと言えます。

もちろん足裏は実際には点ではないので、

なので直立二足歩行=2点支持と単純には言えません。

しかし四足の動物と比較すると、

静止状態においてはやはり不安定だと言えます。

 

そこで一般的には足腰を固めて安定性を確保します。

脚の上に腰が乗り、その上に胸、頭と積み重ねる。

いわば積み木のような構造です。

なので土台となる脚や腰は出来るだけ固く動かない方がいい。

確かにこの方法だと、

重心のコントロールに労力をかける必要がありません。

脳が「倒れない」ための処理から解放され、

他の作業に意識を割り振ることが出来ます。

これはこれで一つのメリットだと言えるでしょう。

しかし足腰は常に緊張状態を必要とします。

そしてその緊張と弛緩の処理さえも手放した結果、

足腰が固まったままどう緩めていいかも分からなくなります。

その結果が血行不良による膝や腰の痛みにつながるわけです。

一般的な意味ではこの部分がデメリットであり、

だから意識的に足腰を緩める運動をしましょうとも言えますが、

今回の本題はこれからです。

 

静止状態での安定性確保を、

「コントロールの労力を最小限にすることを優先」

した結果が足腰を常時緊張させるという選択です。

しかし運動という側面から、

足腰の使い方を考えるとどうでしょうか。

 

運動とはつまり、

「重心の位置や角度を変える」

ことです。

人の重心はおおむね腰のあたりにあります。

ということは腰周りの位置や角度を自由に変えられること、

その自由度の高さこそが、

「運動の上手さ」

だと言えるでしょう。

したがって運動が上手くなるためには、

足腰の位置や角度を自由に変えられるようになる、

つまり足腰を柔らかく扱える必要があるわけです。

 

これは困ったことになりました。

条件付きとはいえ静止状態での安定性の確保には、

「足腰の常時緊張」が必要であり、

運動が上手くなるためには、

「足腰の柔軟なコントロール」が必須なのです。

あちらを立てればこちらが立たず。

明らかに矛盾しています。

しかし上に書いたように、

静止状態での安定性確保に足腰の常時緊張が必要な理由は、

「コントロールの労力を最小限にする」

という条件があったからです。

つまりこの条件さえ外してしまえばいい。

「重心のコントロールに労力をかける」

ことを受け入れれば、

「足腰の柔軟なコントロール」

こそが、

静止状態と運動状態のいずれにおいても最適な選択になるのです。

 

では「足腰の柔軟なコントロール」とは、

一体どのようなものでしょうか。

そのヒントが冒頭に書いた、

「ぶら下がっている脚」「細い腰」なのです。

 

 

この模型の股関節部分をよく見てもらうと、

二つの丸い球からそれぞれ紐のようなものが出ています。

実はこの紐はゴムで、

これを両方から引っ張ることで骨盤と脚をつないでいます。

なのでこの部分はグラグラです。

さて、この状態の骨格模型を持ち上げるとしましょう。

写真の部分(手、腕は除く)で考えてみた時に、

 

1.二本の脚を片手ずつ掴んで持ち上げる

2.腰椎(骨盤の上の背骨)を両手で掴んで持ち上げる

 

の内、どちらが簡単でしょうか?

もちろん実際には様々な条件がありますが、

骨格それ自体の重さでちぎれてしまうことが無い限り、

2.の方が簡単にバランスが取れます。

もし仮に股関節の所が完全にロックして動かなければ、

1.の方が安心するかもしれません。

そう、これは足腰を常時緊張させる、

一般的な安定性の確保のやり方ですね。

しかし柔らかく常に形が変わる足腰をコントロールするためには、

足で腰をコントロールするのではなく、

「腰で足をコントロールする」しかないのです。

この感覚を言葉にすると、

 

「肋骨から骨盤がぶら下がっている」

「骨盤から脚がぶら下がっている」

 

となり、動くときには

 

「腰で脚を振る」

 

となります。

この感覚が馴染んでくると、

「立つ」ことの意味が大きく変わります。

ロボットのところで書いたように、

ここが重力下における運動制御の核心部分です。

普通の感覚で言えば土台であるはずの足腰を、

ぶら下がっている振り子として扱う。

立ち止まっている時も、

片足立ちで体重がかかっている側も。

 

興味があれば試してみて下さい。

 

脱力トレーニング 合気上げの研究2

 

前々回の記事、

「脱力トレーニング 合気上げの研究」

では、僧帽筋、肩甲挙筋、菱形筋の脱力による、

肩甲骨を外下方への落下を初動とするやり方について書きました。

落下した肩甲骨が肘の下へと滑ることで、

腕に掛かる相手の重さを肩甲骨で支えられます。

その関係性を変えることなく広背筋を脱力によって広げ、

肩甲骨が前に滑ることで掴まれた腕を挙げるというものです。

このやり方は腕の使い方を変えるという意味では、

効果的なトレーニングだと考えています。

繰り返し行うことで、

肩に負担の掛かりにくい動き方が身に付きます。

ただ、もちろんこれで完成というわけではありません。

そこで今回は第2弾ということで、

座った状態から腕を挙げる方法を研究してみました。

 

 

一般的な合気上げと呼ばれるものとの大きな違いは、

腕を挙げる側が相手の手首を掴んでいる点です。

これには手首の回転運動を使えるというメリットと、

手が力みやすいというデメリットの両方があります。

ただ実際に腕を挙げる動作においては、

手首を掴まれるよりも何かを持っていることが多いので、

今回は掴む形を採用しました。

 

動画にもキャプションを挿入していますが、

今回の一番のポイントは、

「重心に働く重力を感じながら腕を挙げる」

点にあります。

 

それによる効果は2つの側面から説明できます。

1点目は、身体に働く力を集約する効果です。

人の身体はいくつものパーツから成り立っていて、

それぞれに重力と抗力が働いています。

そして普通に身体を動かす場合、

それぞれが各個でバラバラに重さを支えています。

しかし重心の1点で落下ベクトルを感じることで、

地面から返ってくる抗力も1方向へと集約されます。

その集約された抗力を使って腕を挙げれば、

普段よりも強い力を出せるのです。

 

2点目は、思考モードから感覚モードへの変化です。

人の身体は面白いもので、

意識を向ける対象が変わると、

身体の状態も大きく変わってしまうのです。

動画のようなシチュエーションにおいては普通、

「どうやって相手を動かそうか」

と頭で考えてしまいます。

実はこの時点ですでに思考モードに入っており、

意識の対象が現実ではなく自分の思考に向いているのです。

しかし重心に働く重力は、

実際に身体に働く現実の力です。

そこに意識を集中させることで、

思考モードから感覚モードへと身体が変わります。

自分の思考ではなく、

現実の力に対応するための身体状況になることで、

普段よりも大きな力を発揮できるのです。

 

脱力トレーニング 北の国から2018 秋

 

ルル~ルルルルル~♪

というBGMには全く似つかわしくない方が、

はるばる北海道から2回目のトレーニング参加。

肌は黒いし筋肉ムキムキだし、

春の初対面の時には私が勝手に持っていた北海道人のイメージを、

完膚なきまでに打ち砕かれましたw

片手で45kgのダンベルを持ち上げる人に、

「脱力を習いたくて来ました!!」

と元気な声で言われても困りますよね・・・。

ところがトレーニングを始めてみると、

不思議なほどに腕の力が抜けるのです。

「筋トレしてても脱力できる」

ことに気づかせてもらいました。

 

 

前回のトレーニングでは、

「腕や脚に掛かる重力を力として扱う」

ということの基本を徹底的に行いました。

今回はその発展版として、

「重心の落下ベクトルを感じながら動く」

ことを重点的にトレーニング。

短期間とは言え1日に7~9時間もやったおかげで、

お互いに上達の手応えを感じられました。

 

動画で行っているのは、

腕相撲のような体勢で指先に重みを集めるトレーニングです。

私は彼のような筋力はありませんので、

普通に腕相撲をしても勝負にはなりません。

しかも両手で押さえられたりすれば、

どう考えてもひっくり返すのは無理と言うものです。

ただ、私の方が優れている部分が一つあるとすればそれは、

「より狭い範囲に集中的に体重を掛けられる」

というものです。

この場合、

手のひらはすでに相手の手により下に押さえつけられています。

しかし相手と組んでいる指先は、

相手の手の上に乗っているのです。

そこで例えば自分の親指の先に体重を集めてみる。

すると予想外の力が相手の親指の付け根辺りの一点に掛かります。

その結果、上手くいけば相手が崩れてしまうのです。

 

 

動画では撮っていませんが、

実際に肘を台に乗せた状態でもやってみました。

可動範囲が狭まるので難しくはありましたが、

出来なくはないといったところです。

手首を巻き込みに来る相手と親指を折りにいくこちらとの、

いわば異種格闘技戦になります。

相手とは違う土俵で戦っているところが武術らしいと思っています。

 

ちなみに小指に集めるやり方もあります。

動画では手首を巻き込む形になっています。

こちらは技術的には親指より難しいのですが、

上手くできれば腕相撲らしい形になりますね。

一度、試してみて下さい。