活人剣と殺人剣(卓球の試合に思うこと)

 

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

 

というわけで、新年最初のブログ更新となります。

テーマは「殺人剣と活人剣」。

このテーマで記事を書こうと思ったきっかけは、

修練後に卓球のIさんに聞いた、

「パワーとスピードで押してくる関西3位の大学生よりも、

それらで上回っている全国2位の小学生の方がやりにくかった。」

という、宝塚オープンの試合の感想にあります。

 

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実際、その大学生には最初のセットで圧倒されたものの、

徐々に形勢を挽回して逆転勝ち。

小学生には完敗だったそうです。

そのことについて本人は、

「大学生の打つ球は、感じようとし続ければ、

そのボールの力の量や質が分かるようになった。

でも、小学生の球は、それらが全然分からなかった。

それが勝因と敗因だと思う。」

という意味のコメントをしていました。

さらには、

「その大学生と小学生が試合のをしたら、

大学生の圧勝だろう。」

とも。

この話を聞いて、「殺人剣」と「活人剣」の違いがよく出ていると思ったのです。

 

少し前に映画にもなったマンガ、

「るろうに剣心」を読んだことがあれば、

これらの言葉自体は知っているかと思います。

あのマンガでは、主人公の緋村剣心が逆刃刀(さかばとう)を使い、

不殺(ころさず)の誓いを守りながら、

明治の新しい世に馴染めない剣客と闘います。

そんな剣心には、幕末の京都で「人斬り抜刀斎」として、

数多くの命をその剣で奪ってきたという過去があります。

つまりある意味ではこのマンガは、

「緋村剣心」と「人斬り抜刀斎」との闘いの物語だと言えるのです。

そして剣心が使う人を守る為の剣を「活人剣」といい、

抜刀斎や敵の使う人を斬る為の剣を「殺人剣」という。

これがこの作品における「殺人剣」と「活人剣」の定義ですし、

多分多くの人が持つイメージでもあるでしょう。

ところがこのイメージ、

物語の中で扱うには確かに分かりやすくて良いのですが、

実は本来の意味とは違います。

私も直接文献を調べたわけではないのですが、

元々は柳生新陰流で使われる言葉だったと記憶しています。

そこにおける「活人剣」とは、

「相手を動かしておいて、その動きを活かして斬る闘い方」

の事です。

対して「殺人剣」とは、

「相手の動きを封じて斬る闘い方」

なのです。

この本来の意味での2つの闘い方の違いが、

Iさんと大学生の間にもあるなぁと思ったわけです。

 

大学生は関西3位だけあって、

そのパワーとスピードは相当なものだったそうです。

それによって、相手が打てない所に打ち込んで勝つ。

これは闘い方としては「殺人剣」にあたります。

反対にIさんには、大学生のような派手さはありません。

思い切りスマッシュを決めまくるタイプではなく、

相手のボールを確実に返しながら次第にペースを握るのです。

最初は相手に思うように動かせておいて、

そこから様々な情報を集めて勝ちにつなげる。

これは大学生とは逆に「活人剣」的だと言えるでしょう。

断っておきますが、どちらが優れているという事を言いたいのではありません。

物語の中では「活人剣」の方が響きが良いでしょうが、

現実には、自分に合ったやり方で良いと思います。

その時々で求めるものも変わってくるはずですから。

ただ、それぞれの特徴を知っておく事は重要です。

それによって、今回のIさんのような例でも、

なぜ大学生に勝てたのに小学生には負けたのか、

その理由が理解できます。

 

Iさんの闘い方において重要なのは、

繰り返しますが「情報」です。

出来る限り脱力しながら、

相手のボールの情報を感じ取る。

また、脱力による力で打つことで、

自分のボールの情報は与えない。

こうすることで、パワーとスピードで上回る相手から、

試合の主導権を奪っていくのです。

大学生の打つボールは確かに速くて強いけれども、

その分Iさんにとっては情報が集めやすかった。

だから結果として逆転勝ちにつながったのです。

けれども小学生が相手だと、

情報収集が難しかったのでしょう。

大抵の場合、子供は大人より脱力出来ています。

そしてパワーやスピードはそれほどでもない。

つまり、ボールから得られる情報量が極端に少ないのです。

情報を頼りに闘うIさんのスタイルには天敵と言えるかもしれません。

逆にペースを崩されて負けてしまった。

ここが今回の話のポイントになりますが、

一般的には強いはずの大学生に勝てたのに小学生に負けたのは、

「活人剣」と「殺人剣」では「強さの基準が違う」からなのです。

 

大学生のパワーとスピードは、

あくまで処理出来る範囲の情報量だったのに対し、

小学生のボールからはそもそも情報が得られなかった。

それが試合の勝敗を左右するということは、

「活人剣」における強さの基準は「処理可能な情報量」にあるということです。

「殺人剣」では、スピードとパワーが強さの基準となります。

卓球で言えば、速くて力強いスマッシュや、

回転量の多いカットやドライブを打てるかどうか。

武術においては、どれだけ威力のある突きや蹴りを出せるか。

そういった部分が強さを決めるのが「殺人剣」。

それに対して、自分と相手の状態をより正しく把握する。

そしてその状態における適切な行動を取る。

そんな情報の収集と処理の能力が強さに繋がるのが「活人剣」なのです。

このように強さの基準が違うということを理解すれば、

大学生に勝って小学生に負けたという結果にも納得がいくでしょう。

やり方次第では、大人が必ずしも子供より強いとは限らない。

男性が常に女性より強いとも限らない。

何を基準として競うかで、その結果は変わってくる。

Iさんの話を聞いて、そんな所に面白さを感じました。